今回紹介する本は「実践フェーズに突入 最強のAI活用術」です。
著者は数々の AIの導入を行ってきた AI専門家である 野村直之 さんで、彼が彼の経験を基にした AIの活用法を紹介しています。
理論的な話や、プログラムに関する話ではなく、AIを活用したビジネスやプロジェクトを行う前に読んでおく指南書と言う位置づけかと思います。



【内容・感想】
私の場足、今まで実装を先行するため Pythonプログラムが書かれた技術的な書籍をメインに、たまに数式が書かれた理論的解説書を読んできたのですが、そろそろプログラムも数式も書かれてないAI活用法を読み始めてみました。そう言う意味では、とても気付きの多い書籍でした。

この本で感じたのは、AI活用と言う観点では、目標精度評価がとても重要であると言うこと。本書ではそれについて多くの章でとりあげ深く解説しており、他の章や話題でも AIの精度に関するトピックが多くでてきます。

要は他のシステム開発と現状の AI(機械学習・深層学習)の開発で大きな違いとして目標精度の重要性があります。通常のシステム開発ではバグの発生率なんかの精度はあるかもしれませんが、ユーザの要件通りに開発して動くのが基本。しかし、現状の機械学習・深層学習では誤りは付き物。
ありもののデータ、取得できるデータをもとに機械学習ができたとしても、どのモデルでどれだけの精度がでるかは試してみなくてはプロでも分からない。そして、100%の精度は出しようがない。

そうなると重要となるのが目標精度の設定と検証、評価の進め方。機械学習を導入するプロジェクトでもこの部分を考慮したスケジュールを考える必要があります。

そして、実務フローまで落とし込む際には、今までの業務フローにはない、取り違え行列の活用も必要となります。AIを導入すると業務フローは拡充、複雑化するのが普通です。この取り違え行列を精査、吟味することで業務フローの細分化を抑える効果があるとのこと。
この本で紹介されている例では、癌の画像診断があります。例えば AIの診断後の医師のダブルチェックの業務を入れる場合、一番問題になると考えられるのが健常と診断されたが癌があった場合。よって、健常との判断されたものにダブルチェックを入れます。また、全健常データをチェックしては、AI導入の業務効率化効果が薄まります。よって、AIの確率が一定の値を超える判定結果はダブルチェックをしないようにします。その一定の値の決め方は人間の誤診率を下まるようにします。

本書にはこのような医療系の実例が比較的多い気がしますが、自分の専門外の分野でも多くの実例を見ることでとても理解が深まります。

【各章の内容】

以下が大まかな目次と、各章で著者がまとめている内容です。これで書かれている大まかな内容が分かると思いますので、より詳細が読みたい章があれば本書を手に取ってみると良いかと思います。

第1章:今のAIで何ができるのか/できないのか
 ・今のAIは全て道具だと捉える
 ・「強いAI」の誕生は今世紀中は無理
 ・深層学習の特質を理解し、実用化に挑むべき

第2章:深層学習活用の基本的な流れ
 ・精度評価に「適合率」「再現率」という二つの指標を利用
 ・精度評価の実験は難しくない
 ・質・量ともに優れた正解データを用意できるかが鍵

第3章:目標精度評価・活用の実際
 ・目標精度評価の進め方は応用分野や課題により異なる
 ・実務フローを構想する際は「取り違え行列」の活用が有効
 ・AIに誤りは付き物、それを理由に排除するのは不毛

第4章:具体例で見るAI導入の実際
 ・短期間のプロトタイプ開発で目標精度を評価
 ・鍵は正解データ作り、専門職に任せるのが現実解
 ・深層学習ではGPUを利用した高性能のハードウェアが不可欠

第5章:AI導入を支える人材が持つべきスキル
 ・AI時代に必要なのはシャーロック・ホームズの思考力
 ・開発作業の中心は正解データの整備になる
 ・目指すは「知識労働」でなく「知能労働」を担う人材

第6章:AIの産業応用で今後留意すべきこと
 ・データと対話し続ける姿勢が大切
 ・日本はAI導入の「伸びしろ」が大きい
 ・汎用人工知能が出たとしても、AIは道具として使う

【著者について】

著者は 野村直之さん。AIの研究や開発をとても長く行っている専門家です。研究者として理論にも詳しく、かつ開発者として開発実績も多い方です。そのため本書でも実例を多く挙げ解説されているわけですね。
彼は他にも以下のような書籍を出されています。

AI(人工知能)まるわかり
古明地正俊
日本経済新聞出版社
2017-04-14


人工知能が変える仕事の未来
野村直之
日本経済新聞出版社
2017-02-10




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