今回紹介する本は「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本 人気講師が教える仕事にAIを導入する方法」と言う本です。タイトルからも分かる通り、とてもやさしく機械学習のプロジェクトに関して解説された書籍です。

作者は多くの機械学習システムのプロジェクトに参加してきたブレインパッドの 韮原祐介 さん。
私が特に知りたかったのが、他の通常のシステム開発プロジェクトとこの機械学習システムプロジェクトの違いです。その辺が本書ではしっかり書かれており、機械学習システムの開発がかなり通常のシステム開発と違うことが分かります。



ERP等を利用した基幹系情報システムの構築などでは他社に実現できたことが自社で技術的に実現できないということはほとんど起こりません。しかし、機械学習システムでは、データの質と量によって精度が大きく左右されるため、やってみないと実現できるか分からないと言う特徴があることを学ぶことができます。そのため、他のシステム開発よりも慎重に ROIを検討する必要があるわけです。


【作者】

本書の著者は韮原祐介さん。現在(執筆当時)ブレインパッドに所属する方で、需要予測、画像解析、レコメンドエンジン、検索などの機械学習システムによるビジネス成果の創出に強みがあるとのこと。このシリーズタイトルに「いちばんやさしい」とあるだけあって、難しい話もとても分かりやすく書かかれています。ですので、容易に理解しつつ読み進めることができます。


【内容】

機械学習システムの開発プロジェクトを行う上で知っておくべき基礎知識から、プロジェクトを進めるための実際の各開発工程(「構想」、「PoC」、「実装」、「運用」)の詳細まで詳しく解説されています。
特に、通常のシステム開発の経験があるが、機械学習システム開発初心者には通常のシステム開発との違いが知りたいかと思います。その点が非常に丁寧に書かれています。

私が特になるほどと思った部分は、第7章「機械学習システムを実装する」にある、Lesson55の「通常のシステム開発の違いを知る」と言う項目。
ここだけ本書を少し引用しながらまとめると、機械学習システム開発と通常のシステム開発との違いは2つあるとし、その2つが説明されてます。

1つ目はアプローチの仕方。通常のシステム開発では決まった方法に従って演繹的に答えを出すわけですが、機械学習では与えられた正解データから、この問題の答えはきっとこうだろうと帰納的な答えの出し方になります。要は、通常のシステム開発では答えを出すのに順番に式・方法を処理していくわけですが、機械学習では正解データから関係性を導きさせ統計的に答えを予測すると言うわけです。

そして2つ目の違いとして、開発工程について。機械学習の開発では実際のデータを使って試してみるまでどのような精度が達成されるかが分かりません。そのため、通常のシステム開発とは異なりPoC(Proof of Concept)の工程が必要となります。
また、設計までの工程にも違いがあります。通常のシステム開発では前行程でつめた業務要件をシステムの設計に落とし込んで行きます。しかし、機械学習では設計作業に入る前に仮環境で機械学習モデルの精度を本番で利用可能なレベルにまで押し上げる必要があります。そうして必要なデータや前処理、アルゴリズム、出力についての仕様を確定させてインフラやアプリケーションの設計に入っていきます。
テスト工程に関しても、通常システムでは設計した通りにプログラムされていればとりあえず良いわけですが、機械学習システムでは それプラス、期待した精度が出ているかについてもテストする必要があります。設計通りでも精度が出ない場合は十分ありうると意識している必要があるわけです。


【章立てと、各章の内容】

では、以下に本書の章立てと、各章の内容を簡単に記載します。

第1章:これからのビジネスを切り拓く機械学習
社会・産業におけるAIの位置付けや、機械学習に取り組む意義を解説。

第2章:機械学習の仕組みを理解しよう
機械学習システムの基本的な仕組みを説明。機械学習ビジネスに取り組み際、最低限抑えておく基礎知識について。

第3章:機械学習に必要なリソースを理解しよう
機械学習プロジェクトで必要となるリソースとして、ソフトウェア、ハードウェア、ライブラリなんかを紹介。

第4章:プロジェクトのゴールを定める
実践的な機械学習プロジェクトの全体像を説明。この章では特に構想フェーズの取り組み方について詳しく解説。

第5章:プロジェクトの体制を整えよう
機械学習プロジェクトで必要となる人材や体制を整えるためのポイントを解説。外部パートナー選びの評価法からコストの目安まで網羅。

第6章:プロジェクトの実現可能を検証する
機械学習システム開発特有のPoCフェーズでのタスクを紹介。その中で、データの評価法や検証環境の構築法なんかも詳しく説明。

第7章:機械学習システムを実装する
機械学習システムの実装フェーズについて通常システム開発との違いを説明。要件定義、設計・開発、テストと各工程について説明。

第8章:機械学習システムの運用ポイントを学ぼう
機械学習システムと通常のシステム運用との違いを中心に、機械学習システムの運用方法や管理分析のKPI等を説明。

第9章:成功事例に学ぶ機械学習プロジェクト
この章では筆者が経験した3つの事例が解説してあります。(レコメンドシステム、SNSの解析、音声・画像解析とロボットの組み合わせ)


【関連書籍】

通常だと本書の著者が出版されている他の書籍を紹介する部分ですが、本著者韮原祐介さんにとっては最初の本のようなので、関連した人工知能ビジネスに関する書籍を紹介します。
本書と同じシリーズで人工知能ビジネスを解説した書籍:
いちばんやさしい人工知能ビジネスの教本

AIのビジネスの活用法からAIシステムの開発についての書籍

未来IT図解 これからのAIビジネス
谷田部 卓
エムディエヌコーポレーション(MdN)
2018-10-30





人工知能を活用している先進企業の最新事例について:

AIをビジネスに活用するために知っておくべき基礎知識:




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